南日恒太郎『英文解釈法』、山崎貞に続き、復刊なるか?

外山滋比古さんの『新・学問のすすめ』にこんなことが書いてあります。

明治から今日までのおびただしい英文解釈法の「参考書」をごく大ざっぱに分類すると二つになる。
一つは南日恒太郎の『英文解釈法』に代表されるグループであり、他は山崎貞『英文解釈研究』によって代表されるものである。

山崎貞の『新々英文解釈法』は、2008年のクリスマスに復刊されました。
※ 参照 - 拙記事山崎貞『新々英文解釈研究』

南日恒太郎の『英文解釈法』はどんな参考書なんだろう?と気になっていましたが、詳しく書かれているブログを発見。

南日の前に南日なく、南日の後に南日なし?

発見、といっても、みのりさんから教えてもらったんですけどね。
みのりさん、いつも極秘情報をありがとうございます。

さて。

南日恒太郎の『英文解釈法』ですが、希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)さんが書いていらっしゃいます。
懐かしの英語参考書(24)南日恒太郎『難問分類 英文詳解』(1903)

高梨健吉さんの言葉を孫引きさせてもらいます。

受験参考書の古典としてまず第一にあげるべきものは南日恒太郎のものであろう。彼によって初めて英語受験参考書は体系的に整えられたといってよい。いま読んでも実にすばらしい参考書で、南日の前に南日なく、南日の後に南日なし、との感にうたれる。彼のように国文と英文の両道の達人にして初めてなしうる著作であろう。

ところで。

「~の前に・・・なく、~の後に・・・なし」。
野球では、「苅田の前に苅田なく、苅田の後に苅田なし」。
柔道では、「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」。

この言い方、漢籍が出典ぽいので調べたことがありますが、素養が浅くて発見できず。

話がそれました。

江利川さんの記事に『英文解釈法』と、その前身、『難問分類英文詳解』の表紙が載っていますが、著者の南日よりも先に、神田乃武(ないぶ)(男爵だったので、通称、神田男)の名前があるのは面白い。

神田乃武と津田梅子

さらに話がそれますが、明治初期にイギリスやアメリカに(今でいう)留学した有名な人物に、神田乃武(1857~1923)や津田梅子(1864~1929)らがいます。

以下、上にも名前が出た高梨健吉さんの『文明開化の英語』から引用しながら、神田と梅子の話を。

神田と梅子はともに明治四年に渡米します。
神田は十四歳。梅子は六歳でした。

神田は能触頭(のうふれがしら)の家柄に生まれましたが、次男なので蘭学者の神田孝平の養子となります。

能役者の金春(こんぱる)家の養子に、という話もあったようで、もしそうなっていたら、のちの英学界の重鎮、神田乃武は存在しなかったことになります。

もっとも、

彼は才能もあり美少年であったから能役者としても成功したであろう。

と高梨さんは書いています。

神田は八年にわたるアメリカ暮らしを終え、帰国します。

彼は明治十二年十二月に帰朝したが、日本語はまるで忘れていた。帰朝の日、父親に対する挨拶は英語で、おまけに父を抱擁してアメリカ流にキスをしたので、老父神田孝平も閉口したらしい。

十四という年齢、しかも秀才であった神田でさえ、日本語をまったく使わない環境に八年もいると、日本語を忘れちゃうんですね。

津田梅子の場合、六歳で渡米、滞在十年ですから、もっとひどかった。

梅子は十年後に帰朝したが、困ったことには日本語をすっかりわすれていた。母親にも挨拶ができず、しばらくは父親と、女学校で英語を習った姉が通訳をした。梅子はあるとき外出したが、言葉が通じないので困っていると、知り合いの外人が来たので、長く日本にいるこの外人に用事を言ってもらった。この外人は後に梅子に会うたびに、「アベコベです」とからかったという。

さて。

そのころ、アメリカ帰りの若い神田乃武は彼女の熱心な求婚者の一人であった。

「求婚者の一人」ということは、梅子はそうとうモテたんですね。

モテた、といえば、神田乃武。
しかも、女性からだけでなく、男子学生からも。

山高帽をかぶり、ステッキをもって悠々と歩いて来る先生の姿はハイカラで、しかも上品な貴公子であったから、岡倉由三郎や平田喜一など学生の崇拝の的であった。

岡倉由三郎は、岡倉天心の弟で、研究社の『新英和大辞典(初版)』の編集主幹を務めた人物。
当時、『新英和大辞典』は、『岡倉英和』と呼ばれていました。

平田喜一、またの名、平田禿木(とくぼく)は英文学者で、随筆や翻訳を多く手がけました。

先生が生徒に影響を与えるのは、教え方が上手い、下手だ、というより、接すると感じる「何か」なんじゃないかと。
(当然、合ったことはないが)神田乃武や市河三喜、中島文雄といった重鎮たちの文章を読むと、そう感じます。

そんな神田乃武ですが・・・

この青年紳士の求婚に対してはどんな女性でもノーというはずはないのに、梅子はきれいに断わってしまった。

その理由は、

自分は政府のおかげで外国で修業して来たのであるから、まずその恩恵を国に返さなければ結婚などはできない、というのであった。
―塩谷栄『津田のお梅さん』

留学後、日本人をヤメ、「地球市民」になってしまう若者が多い今の日本を見たら、お梅さんは何というでしょう?

それはともかく、

かくして明治のもっとも輝かしい英学者ふたりのおしどりコンビを見ることができなくなったのは、なんとも惜しい気がする。

と、高梨談。

当時のママで、復刊希望

閑話休題。

冒頭で引用した外山さんの本の続き。

南日のものは、むずかしい語句中心で、語句の解明という点では、すぐれている。明治の英文理解の努力が一つの完成を見せているのが南日の解釈法である。
大正に入ってから生まれた山崎貞の本は、南日よりも文章の組み立て、構造、組織に注意している。
英語の構造(英語教師はこれを構文と言っているが)によって英語を整理しようとした試みが『英文解釈法』である。
南日の語句単位に対して、山崎はセンテンス単位であるとしてよい。

気になっていたのは、

南日のものは、むずかしい語句中心で、語句の解明という点では、すぐれている。

という言葉。

江利川さんのブログに(数問)英文が写真で掲載されているので、かなり疑問が氷解しました。

そして思った。

『英文解釈法』、ぜひ復刊してもらいたい!

しかも、いわゆる現代仮名遣いなどにせず、原文のママで。

復刊されても、買うのは受験生ではなく、酔狂な好事家でしょうから。

フリッツが父の手を執り乍ら其話を述ぶる際、將校達は一心不亂に聽きゐたり。
※ 一部、旧漢字に変換できない文字あり。

ああ、明治は遠くになりにけり・・・

コメント

from 荻原 俊勇

小生は、高校時代 南日英文解釈法からのプリントを恩師から配布され、それをもとに英語の授業を受けました。
 Business took me to Bohemia
仕事でボヘミヤへ行った
というような一文を覚えています。
 卒業後、東京の古本屋で南日英文解釈法という本を入手したことがありましたが、その中身は、高校時代の恩師からのプリントのものとは異なっていました。実家にそれらを置いているうちに、50年も経過してしまい、恩師から頂いて叩き込まれたプリントも、古本屋で入手した本も今は雲散霧消、小生の記憶の中に英語力?の血肉となって
生きています。旧制高校生たちは、英語の文章の中に人生論も含めて学んだということしり、軽薄な英会話などでは
本当に英語を学べるのかという疑問があります。
南日英文解釈法のような漢籍の教養も英文の教養も併せ持つ参考書の再刊を希う一人です。

from まさんた

荻原 俊勇さん、初めまして。

僕は南日恒太郎の本は持っていませんが、この記事で紹介した江利川教授のブログに掲載されている英文、味わいがありますね。

ここ数十年、英語教育は “教養” から “実用” へ、という風潮です。
それはそれで時代の要請なので仕方がない面もあると思います。

でも難解な英文をじっくりと辞書や英文法書を頼りに読解することが、無意味どころか害悪のように叫ばれていることには大反対。

ヨーロッパではラテン語(とギリシャ語)、日本では漢籍を読むことが学問。
アジア大陸の東と西ではそれを千数百年も続けてきました。

合理的というか、実用的に考えれば、普段使わない言葉を読むことなど無駄の極み。

しかし、その “無駄” の効果の大きさを知っていたのでしょう。ヨーロッパでも日本でも。

外国語の学習ほど贅沢な学習はない、と個人的に思っています。
言語には、その国の歴史や文化がつまっていますから。

それ以上に、母国語である日本語や、半母国語であった漢籍を大切にする方向に向かえばいいと思いますが、ん・・・という感じですね、今の我が国は。

from 正直正太夫

南日恒太郎の『英文解釈法』は、全ページが国立国会図書館のアーカイブで閲覧できます。家に居ながらパソコンで全文閲覧できるなんてすごい時代になったものです。芥川龍之介全集の書簡編を読んでいると旧制の東京府立一中時代の友人宛ての手紙の中に南日恒太郎の英文解釈法で勉強するという一文がありました。
結果的には、一高に推薦合格したので無試験入学でしたが、芥川も南日の『英文解釈法』で相当、英語の勉強をしたみたいですね。その芥川が勉強した『英文解釈法』の実物をネットで見る事が出来ます。
私は、全ページプリントアウトしました。
なかなか面白い内容です。

from まさんた

正直正太夫さん、初めまして。

おぉ・・・・・・・

『英文解釈法』だけではなく、他の南日の本まで閲覧できますね・・・・・・

貴重な情報、ありがとうございます!

数日どころか、数ヶ月楽しめそうです!

芥川龍之介の南日で英語を学んだ、と知ると、ますます南日の『英文解釈法』を読みたくなりました。
早速、プリントアウト開始。

今日、高校生に教科書の英文を使って教えましたが、険しい山を登る英文ではないので、正直、何と言うか・・・でした。

歯痒い。

※コメントは管理者の承認後に表示されます。

※必須 (お名前がないと、スパム判定するようになっております)
(※通常、不要です)

この記事に言及する

trackbackURL:

この記事に言及してくださる方は、下のタグにて。
タイトル文字は、ご自由に変えてください。

カテゴリー " 英語 " の最新記事

▲ページトップへ戻る