2008年7月27日
原文に忠実で、自然な日本語にするのは難しい
ちょっと自分で書いた記事をいくつか読み直してみました。
つくづく思い知ったのは、引用した英文の(自分が訳した)日本語訳のひどさ。
まあ、翻訳者ではないので、うまく訳するのは無理、と開き直っていましたが。
前回、日本語を、もっと、という記事を書いたからには、訳文にも気をつけようと。
今日、洋書を読んでいて英文を拾ったのですが、さっそく、訳文に困りました。
英文をきちんと理解できていれば訳せる?
よく、こんなことをおっしゃる方がいます。
英文を理解できるのと、日本語に訳すのは別だ。
きちんと英文を理解していれば、訳せなくてもよい。
試験の和訳問題や、翻訳する場合は別として、それは正しいでしょう。
いちいち英文を日本語に訳しながら洋書を読むのは本末転倒です。
ただ、(偉そうなことをいえば)自論として、
英文をきちんと理解できていれば、きちんとした日本語に訳せる。
と言いつつ。
先ほども書いたように、訳すのに困難な英文に出会いました。
Jeffery Deaver の 「The Empty Chair」の一文。
とある事件の犯人と思われる少年を、パケノーク川(The Paquenoke River)周辺で探す警察。
川の両岸は雑草や木々でうっそうとしている。
警官の中の一人、エド・シェーファ(Ed Schaeffer)は、二十四時間ぶっ続けで少年を追っている。
そして、少年のものと思われる足跡(footsteps)を発見する。
少年が森から川へ歩いてきたときにできた足跡のようだ。

そこで、この英文。
Knees creaking, Ed rose to his feet, as quickly as a big man could, followed the boy's footsteps back in the direction they'd come―farther into the woods, away from the river.
難しい単語はないし、構文もそんなに複雑というわけではありません。
とりあえず、最初から直訳しながら読んでみます。
Knees creaking,
creak は、ドアなどが「ギギィー」ときしむ。
二十四時間ほとんど休みなしで捜索していたので、ひざがギギィーときしんだのでしょう。
これは分詞構文。
実は分詞構文の例文としてこの英文を拾いました。
分詞構文についてはまたあとで書くとして、分詞構文・名詞~ing の例文を参考書から引用しておきます。
The weather getting worse, the party stayed at the camp.
天候が悪化したので,一行はキャンプに留まった。
-山口俊治『全解英語構文』
英文に戻ります。
Knees creaking,
膝がきしむ。
Ed rose to his feet,
エドは立ち上がった、
どんなふうに?
as quickly as a big man could,
大男ができる精いっぱいの素早さで、
そして、
followed the boy's footsteps back
少年の足跡を逆戻りにたどった
back 「逆戻りに」となっています。
逆戻りとは?
in the direction
その方向に
どの方向?
they'd come
足跡 (they) が来た。
―farther into the woods,
さらに森の奥深くへ、
away from the river.
川から遠ざかって。
普通、追跡する場合、足跡が進む方向に向かいますが、Ed は逆に進んだ、ということ。
図にすれば、こう。

もう一度、英文を。
Knees creaking, Ed rose to his feet, as quickly as a big man could, followed the boy's footsteps back in the direction they'd come―farther into the woods, away from the river.
さて、この英文をどう訳すか?
Knees creaking,
「膝がきしむが、」ぐらいか?
「きしむ」ではなく、「痛む」でもいいかも。
「膝が痛むが、」。
Ed rose to his feet
これは、「エドは立ち上がった」でいいでしょう。
問題は、
as quickly as a big man could,
a big man は Ed 個人のことではなく、一般的な「大男」。
大男でも動きが素早い人もいるでしょうが、動きが少しにぶい、というイメージがあります。
as ... as ~ は「程度が同じ」。
Ed が立ち上がった素早さ(quickly)の程度が、(一般的に動きがにぶいと思われている)大男が出せる素早さ(quickly)と同じ程度だった、ということ。
つまり、Ed が立ち上がったスピードは「素早い」のではなく、ちょっと遅め。
どう訳したらいいのか?
エドは大男で、動きはそれほど素早くはないが、めいっぱい急いで立ち上がった。
ん・・・
微妙・・・
そして、
Knees creaking,
の訳をどうあわせるか?
膝が痛むが、エドは大男で・・・
じゃ、ちょっと流れが不自然。
後ろにもっていくのも一つの技。
エドは大男で、動きはそれほど素早くはないが、めいっぱい急いで立ち上がった。膝が痛む。
このほうが日本語としては自然かと。
原文からもはずれていないでしょう。
分詞構文は、訳するときに置く場所を変えると逆にスッキリすることがあります。
そのことは分詞構文について書いたときにでも。
as ... as ~ も、場合によっては訳を逆にしなければならないことがあります。
That guy Morrow was about as sensitive as a goddam toilet seat.
(あのモローってやつの感受性ときたら,まず,便座並みだった)
She was about as kind-hearted as a goddom wolf.
(彼女の心の優しさは,まず,オオカミ並みだった)
I liked him as much as Churchill liked Hitler.
(ぼくが彼を好きなのは,チャーチルがヒトラーを好きな程度だった)
以上、安藤貞雄『現代英文法講義』からの引用。
最初の2つの英文は皮肉たっぷりで、そのままでいいと思います。
最後の英文は、翻訳するとすれば、
ぼくは彼を大嫌いだ。チャーチルがヒトラーを大嫌いだったぐらいにね。
とするはず。
比較の問題は、比較について書いたときに自分なりに詳しく考えてみたいと思っています。
さて、これ以外にも気になるところがありますが、一応、今回とりあげた英文と、自分の試訳を。
Knees creaking, Ed rose to his feet, as quickly as a big man could, followed the boy's footsteps back in the direction they'd come―farther into the woods, away from the river.
【試訳】
エドは大男で、動きはそれほど素早くはないが、めいっぱい急いで立ち上がった。膝が痛む。そして、少年が進んでいった方向ではなく、やって来た方へと足跡をたどった。さらに森の奥へ。川からは遠ざかる。
-Jeffery Deaver 「The Empty Chair」
やはり、まわりくどいなぁ...。
翻訳ではどうなっているのでしょう?
買ってみて、どうなっているか確かめてみたいと思います。
いや、ほんと訳するのは難しい、と痛感しました。
翻訳家には、とてもじゃないが、なれそうにもありません...。
まあ、翻訳家になる気はないですが。
なれるなら、石油王になりたい。

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