「英文法の謎を解く」副島隆彦(著)

『英文法の謎を解く』三部作にたいしては、なにかと評価がわかれているようで。

『英文法の謎を解く』は、簡単にいえば、いわゆる「学校英文法」への批判。

私たちは、本気でこれらの問題を考え直して、何が自然で、ごく普通の、世界で通用する英語なのか、を今こそ真剣に理解せねばならないのである。

もっともな意見で、副島さんの意見に対し、反対する人は誰もいないでしょう。

それではなぜこの本は批判が多いのか、について、ちょこっと書いてみます。

なぜ『英文法の謎を解く』は批判が多いのか

まず、その挑戦的な書き方。

表紙の裏の・・・なんていうんだっけ?

忘れた。

とにかくその文。長いが引用させてもらいます。

なぜ日本人は英語がうまくならないのだろうか。なぜ珍妙な和製英語がこうも街なかに氾濫しているのだろうか。日本の英語教育における基礎工事の欠陥こそが、その元凶であろう。もう一度「英文法の基礎」の根源的理解に立ちもどって、土台から立てなおす必要があるのではないか。中世ヨーロッパ以来の文法学論争を踏まえつつ、わが国の英文法理論がかかえる混迷と謎に鋭く迫るとともに、基本動詞から比較級・仮定法にいたるまで、英文法の基本体系のエッセンスを解き明かす。ここからはじまる「基礎英文法」再入門!!

まあ、これは担当の編集者の方が考えたのでしょうけど。

それにしても実に壮大な計画。

しかし・・・

読むと、あまり壮大なことは書かれていなかったり・・・

いや、書いてあることは書いてあるのですが。

だから、私は、18世紀までに、ヨーロッパ共通の知識人言語であったラテン文法にまで英文法(各ヨーロッパ語文法)を戻して、それと、日本語の統一的観察をすべきだとずっと考えてきた。

「考えてきた」だけで、その壮大な理論?がどんなものなのか、の説明があまりなかったり・・・

ちゃんと調べた?

これも、どうでしょう。

ちなみに、at midnight (アッツ・ミッドナイト)を日本の辞書は、全て「真夜中」としているが、真夜中ではない。at midnight は = 12:00 a.m. 「夜の12時きっかり」のことを言う。真夜中(夜の1時~3時ごろ)は、in the middle of the night と言うのだ。

at midnight の説明はまあ、正しいとして、問題はその書き方。

日本の辞書は、全て「真夜中」としているが

『英文法の謎を解く』が出版されたのが1995年。

その、4年前に出版された研究社『ライトハウス英和辞典(第2版)』の midnight の項はこうなっています。

1 午前0時
-研究社『ライトハウス英和辞典』

さらに語法の説明として、

普通 at midnight は「真夜中の0時に」であるのに対し,in the middle of the night は「夜中 [深夜] に」の意で午後11時から午前4時頃までと幅がある.
-研究社『ライトハウス英和辞典』

よって、

日本の辞書は、全て「真夜中」としているが

は間違い。

全部の英和辞書をチェックするのはたいへんでしょうから、そのくらいの間違いはいいとして、「問題あり」なのは、研究社の辞書をチェックしていないこと。

副島さんは以前、『欠陥英和辞典の研究』という本を書き、研究社と裁判沙汰になったことがあります。

しかも、まさにその『ライトハウス英和辞典』もやりだまにあげているのに・・・

あるいは『ライトハウス英和辞典』の記述をみても、

日本の辞書は、全て「真夜中」としているが

と書いたのか。

まあ、チェックしなかったにせよ、チェックしたが無視したにせよ、その姿勢には、ちょっと疑問符3つ。

???な例文

あとは、おかしな例文が、ときたま見られること。

...「彼女は美しく見える」ということを、英文では、

She looks [seems] beautiful.

と言う。

彼女は美しく見える、という日本語も、なんとなく、へん。

美しいなら、

彼女は美しい。

She is beautiful.

で十分だと思います。

あるいは、一時的な状態の見た感じ、

She looks tired.
-「LDOCE ロングマン現代英英辞典」

なら当然、自然。

ただ、beautiful は一時的なものではないので、

She looks [seems] beautiful.

はどうかな、と。

She looks [seems] beautiful in the dress.
あのドレス、とっても似合っていてきれい(※自作英文です)。

など、付けくわえれば自然になると思いますが。

どうでしょう?

あとは、

たとえば、「私は、猫が好きです」は、

I like a cat.

である。

これについては、「完結・英文法の謎を解く」で訂正文を載せています。

I like a cat. の誤文を訂正する
私が前書『英文法の謎を解く』の 101 ページで挙げた、例文の I like a cat. 「私は猫が好き」は間違いである。英文としては誤文であった。私は自分が書いた文をはっきりと誤文と認めなければならない。

いさぎよい訂正文。

ちなみに、第6版からは、I like cats と訂正されているそうです。

もっと率直なのは、訂正したことについての記述。

私の前作の × I like a cat. の誤りは、既に、コソコソと I like cats. に訂正させていただいているので、ご指摘いただいた3人の読者には感謝申し上げる。それにしても、この「させていただく」とか「ご指摘いただいた」という日本語は何とかならないものだろうか。言語自体が卑屈でどうしようもない。「誤りを指摘されたので、訂正した」と書いて、これが少しもおかしくないような国に日本も早くなるべきだ。

そう思う。

もちろん、

当社の販売した食品に異物が混入していたので、回収した。

では思いっきり丁寧に謝罪すべきでしょうが。

英文法の誤りくらいで鬼の首を取ったように・・・

...って副島さんは日本の英文法の誤りを、鬼の首どころか、閻魔大王の首を取ったように批判しているんですが。。。

『英文法の謎を解く』のよいところ

なんか、批判ばかりなので、この本のよいところも。

たとえば、喫茶店でジュースを頼む、という表現の説明。

「私に、ジュースを下さい」は英語でなんと言うでしょう。
(略)

自然な英語の表現として最もよいのは、
Juice, please.
である。

そのあと、

Juice, please. の'......, please' という一語を自然に言えるようになるのは、奇妙きわまりない日本式の英語勉強を10年やらされたのち、アメリカや英語圏の国々で1年ぐらい暮らしてからだろう。そのころにようやく、初めて、この'......, please.' 「○○○、プリーズ」という言い方をレストランや喫茶店で気軽に言えるようになるのである。私自身がそうだったから。

ほんと、Hello とか Good morning とか簡単な言葉って自然に出ないんですよね、最初は。照れなのか、なんなのか。

まあ、どんどん海外に出て行く今の若者諸君はそんなの平気なのでしょうが。

ちなみに。

余談ですが、

Juice, please.

の訳、「私に、ジュースを下さい」はどうかと。

英語の juice は、

天然の果汁などだけをいい,日本語の「ジュース」のような合成飲料の意味はない.合成飲料は soft drink, soda (pop) などという.
研究社「カレッジライトハウス英和辞典」

余談として、でした。

『英文法の謎を解く』の謎って?

タイトルの『英文法の を解く』の、謎とは?

その「謎」が、どんな「謎」なのかが、本書のいちばんの謎だったりします。

それはともかく。

挑戦的な書き方が嫌悪感を与えるのかもしれませんが、書いてあることはごく普通に他の英文法書に書かれていることです。

自分はこの本、けっこう好きなんですけどね。

なんかこう、天然水ばかり飲んでいて、たまにコーラを飲むと刺激があっておいしい、みたいな。

『英文法の謎を解く』は一応、三部作で完結したようですが、ぜひ続編を書いてもらいたい。

どうしても、『英文法の を解く』の謎がなんなのか知りたいので。

なお、副島さんは1994年に出した『政治を哲学する本』の中で、パソコン業界の予言をしています。

だから、長い目で見て、マックが勝利するだろう。

以来、十数年。その気配はまだなし。

どのくらい長い目で見ると、なのかは不明ですが、この大予言、はたして当たるのか?

副島隆彦さん特有の「私だけが知っている」シリーズの英文法版、として、ぜひ。

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