洋書の読み方 - 精読編

洋書、限定して、英語の本を読んでいる方はたくさんおられます。

どうして洋書を読むのでしょうか?

この問題は人類が二足歩行をはじめて以来の...

なのか?

それは、ともかく。

洋書を読むこと、洋書の読み方、について。

楽しみで読む

自分はもう英語を話したり、書いたりする環境にはありません。

今後もないでしょう。

外国人と、外国語で、ちょーちょーはっし、には不向きな性格だと気づいたので。

それはともかく。

洋書を読むこと。

知的生活の方法 (講談社現代新書 436)

渡部昇一さんの『知的生活の方法』に次のことが書いてあります。

今日はちょうど「成人の日」であるが、去年の十二月ころから正月休みにかけて、私が読んだ英語の小説は二千ページに近い。もちろん私はアメリカ文学の専門家ではないから、義理で読まなければならないものは一冊だってないのである。それは純粋に知的歓びからである。専門書を読んだり、書き物をした後で、新刊のアメリカの評判小説を持って寝床に入り、三十分か一時間、ときとしては二時間、三時間と読む気分は、王侯の地位とも交換できない。もちろん日本の小説でもよいわけだが、日本にいて外国の新刊を楽しめることは、まさに二つの世界を自分の中に持つに等しいのである。

渡部昇一さんは日本有数の英語学者です。

ですが、英語を使う職業についてはいないが、娯楽として洋書を読んでいる方も日本にたくさんおられるでしょう。

自分も、その一人。

それでは、どう洋書を読むか。

洋書を味わって読む、には?

今は絶版になっていますが、上田勤・行方昭夫(著)『英語の読み方、味わい方』の一節。

英文の意味がわかっても,それが理知的な文章なのか感情的な文章なのか,判断がつかなくては,本当に読んだとはいえない。一口に感情的といっても,喜怒哀楽のいずれなのか。怒りの気持ちを表現している場合でも,それを直線的にぶつけているのか,斜に構えて皮肉たっぷりであるのか,そういう区別もできなくてはならない。このように検討することによって,はじめて英文は生き生きとした姿を外国人である読者にも示してくれるのだ。

くどくどと、それについて自分が語ってもあれなので、実際に『英語の読み方、味わい方』の例文の一つを読んでみます。

イギリスの小説家 Graham Greene (1904 - 1991) の 『The power and the Glory (1940)』の冒頭。

まずは読む前の前提として、

Mr.Tench はメキシコの片田舎の港町に住む白人の歯医者で,エーテルは患者の麻酔用に使うのである。
-『英語の読み方、味わい方』

英文に出てくる ether [ イーザ] cylinder は「エーテルの入った円筒」。

look for は、探しに,取りに。
blaze は、燃えさかる,ギラギラと照る。
bleach は、日に照らされ白くなる。

Mr.Tench went out to look for his ether cylinder, into the blazing Mexican sun and the bleaching dust.

the blazing Mexican sun

と定冠詞がついています。

太陽には、普通 the がつきます。それは、太陽は一つしかないから。

しかし、a がつくこともあります。

形容詞を伴う場合しばしば a を用いる : a burning sun 焼けつく太陽.
「ジーニアス英和辞典」

この英文で、

a blazing Mexican sun

ではなく、

the blazing Mexican sun

となっているのは、メキシコの、と限定しているのと、「例の・あの」という意味も含まれているように感じます。

メキシコの太陽といえば、「ギラギラと燃えている」と誰でも思い浮かぶでしょう。

実際にメキシコの太陽のギラギラを味わっていなくても。

もちろん自分も、メキシコに行ったことはありません

でもテレビなどで知ったり、なんとなく印象として、メキシコの太陽は、ギラギラ。

だから、the blazing Mexican sun となっている気がします。

the bleaching dust 「白ちゃけた埃(ほこり)」も同じ。

ギラギラと燃える太陽に照らされ、地面がちょっとした砂漠のような感じになっている。

それも、印象としてわかるので、

a bleaching dust

ではなく、

the bleaching dust

となっています。

ここまでの英文と、『英語の読み方、味わい方』の訳文を。

Mr.Tench went out to look for his ether cylinder, into the blazing Mexican sun and the bleaching dust.

テンチ氏はエーテルの入った円筒をとりに,燃えるようなメキシコの太陽と白ちゃけた埃の中へ出て行った。

次の文の前に、語句を。

vulture [ヴァルチャ] ハゲワシ。頭のてっぺんがはげている、のか理由があって毛がないのか、わかりませんが、あの鳥のハゲワシ。

shabby 「ぼろぼろの,みすぼらしい」。
carrion [キャリオン] 腐った肉,腐肉。

A few vultures looked down from the roof with shabby indifferense: he wasn't carrion yet.

定冠詞にこだわりますが、the roof となっていますから、この屋根は状況からわかる屋根でなくてはなりません。

ということは、Mr.Tench が経営する歯科院の屋根、ということになります。

いちおう、念のため。

Mr.Tench が外へ出ると、数羽のハゲワシが屋根の上から見下ろした。

そのあとが難しい。

『英語の読み方、味わい方』の解説を。

with shabby indifference は非常に妙味のある言葉だ。shabby 「薄ぎたない」「みすぼらしい」は兀鷲から受ける印象である。with indiffernce 「冷淡に」「無関心に」,つまり Tench 氏の姿を見ても一向平気で,薄ぎたない羽をたたんだまま屋根から見降ろしているのだ。非常に鮮やかな映像を与えるだろうと思う。なぜ「冷淡に」見降ろしているのか。その理由はコロンの次の文章で明らかだ。だからコロンは一応 because と考えればよい。

それをふまえ、

: he wasn't carrion yet.

は一見、ハゲワシの考えのように思えます。

ですが、これは、ハゲワシが Mr.Tench はまだ腐肉となっていない、まだエサじゃない、と俺を見ているな、と Mr.Tench が思った、ということ。

『英語の読み方、味わい方』の解説。

「兀鷲のやつ『こいつ,まだ死んでいないな』と考えていやがるな!」

それを意識し、この英文とその訳を。

A few vultures looked down from the roof with shabby indifferense: he wasn't carrion yet.

兀鷲が数羽,薄ぎたなく冷淡に,屋根の上から見降ろした。こいつ,まだ死んで腐っていないな。

さて、次。

wrench 「もぎとる」。
splinter 「ばらばらになる」。

splingering finger-nails 「(かさかさにかわいて)割れた爪」。前の blazing sun , bleaching dust などと相応じて,荒涼たる印象を強めていることに注意。
-『英語の読み方、味わい方』

英文の最初の、A faint feeling of rebellion がポイント。

A faint feeling of rebellion stirred in Mr.Tench's heart, and he wrenched up a piece of the road with splintering finger-nails and tossed it feebly towards them.

rebellion という強い単語と a faint feeling of の組み合わせも面白い。

なんかムカつく、という感じか。

それはともかく、

A faint feeling of rebellion stirred in Mr.Tench's heart,

直訳すれば、

なんとなくムカつく気持ちが、Mr.Tench の心に起こった。

なぜムカついたのか?

それはその前の英文にあります。

A few vultures looked down from the roof with shabby indifferense: he wasn't carrion yet.

兀鷲が数羽,薄ぎたなく冷淡に,屋根の上から見降ろした。こいつ,まだ死んで腐っていないな。

こんなふうにハゲワシたちが Mr.Tench を見下ろしたから。
後半は Mr.Tench の想像ですが。

そして、

A faint feeling of rebellion

と、ちょっとしたムカつき、なのは、それがよくあることだからでしょう。

それはそのあとに続く文にもあらわれています。
自分の直訳といっしょに。

and he wrenched up a piece of the road with splintering finger-nails and tossed it feebly towards them.

そして彼はひび割れた爪で道の土片をはがし、ハゲワシに向かって弱々しくほいっと投げた

toss は 『Concise Oxford English Dictionary』によると、

throw lightly or casually

しかも、feebly ですから、ハゲワシに土片をぶつけようという気持ちはない。

やはり、よくあることだったのでしょう。

よくあることとはいえ、ハゲワシたちに屋根から見下ろされるのは、やっぱり、しゃくにさわる。

それが、

A faint feeling of rebellion

や、

tossed it feebly towards them

にあらわれいるような気がします。

この英文と『英語の読み方、味わい方』の訳を。

A faint feeling of rebellion stirred in Mr.Tench's heart, and he wrenched up a piece of the road with splintering finger-nails and tossed it feebly towards them.

なにくそっという気持ちがかすかにテンチ氏の心に動いて、彼は割れかかった爪で往来の土をはがして、兀鷲のほうへ弱々しく投げた。

次の英文。

まずは語句。

flap 「鳥がゆっくりと羽をぱたぱたさせ飛ぶ」
bust 「胸像」。
stall 「露店」。

One rose, and flapped across the town: over the tiny plaza, over the bust of an ex-president, ex-general, ex-human being, over the two stalls which sold mineral water, towards the river and the sea.

この英文も味があります。

一羽が飛び立つ。

そのハゲワシの飛ぶ描写。

まず、

across the town
町を横切って(飛んでいった)

そのあと、コロン : があります。

コロンは、前文の具体的なことを描写するときなどにも使います。

over ... over ... over ... towards ...

...を越え、...を越え、...に向かって。

まずは over the tiny plaza (小さな公園を越え)。

そして、

over the bust of an ex-president, ex-general, ex-human being

元大統領にして元将軍、そして、元人間であった胸像を越えて

これには『英語の読み方、味わい方』に、

大胆な書き方だ。

と書かれています。

たしかに最後の ex-human being というのは・・・

ここまでの英文を『英語の読み方、味わい方』の訳と共に。

One rose, and flapped across the town: over the tiny plaza, over the bust of an ex-president, ex-general, ex-human being, over the two stalls which sold mineral water, towards the river and the sea.

一羽が飛びたって,町を横ぎって飛んで行った,ちっぽけな広場の上を,生前は大統領で将軍で人間だった人の胸像の上を,鉱泉を売っている露店の上を,川と海のほうへ。

Mr.Tench がハゲワシの飛ぶ様子を見てたことがわかります。

なぜ見ていたのでしょうか?

答えは次の英文に。

It would't find anything there: the sharks looks after the carrion on that side. Mr.Tench went on across the plaza.

海へ行ったって何もあるもんか。そっちの死体は鮫がちゃんと始末するよ。テンチ氏は広場を横切って歩いて行った。

これで例文は終わり。

Mr.Tench のハゲワシにたいする・・・自分では説明できないので、『英語の読み方、味わい方』の説明を。

いったい Green の文章の非常にすぐれた特色は,客観描写と登場人物の心理描写とが渾然と融合し一体となって,微妙な陰影を醸(かも)し出している点にある。そこには両者を区別するわざとらしい説明は何もない。この文章などもそのよい例で,例えば "he wasn't carrion yet" や、"It would't find anything there: the sharks looks after teh carrion on that side" は,表面的に見れば作者が客観的に説明したように見えるが,それは浅薄な読み方で,この文章の面白さは大半消えてしまう。これはどうしても Mr.Tench の脳裡にひらめいた考えと見なければならない。「兀鷲のやつ『こいつ,まだ死んでいないな』と考えていやがるな!」とか,「そっちへ行ったって何もあるもんか。そっちの死体は鮫がきれいに片づけてしまっているよ,(ざまあみろ!)」というテンチ氏の兀鷲に対する反感を,represented speech (抽出話法)で書いたものである。だからこそ作者は wasn't とか wouldn't とかを使ったのだ。そこまで読み深めてこそ,"Mr.Tench went on across the plaza." という最後の一句も生きてくる。

そこでもういちど、例文と訳をまとめて。

じっくりと味わってみてください。

Mr.Tench went out to look for his ether cylinder, into the blazing Mexican sun and the bleaching dust. A few vultures looked down from the roof with shabby indifferense: he wasn't carrion yet. A faint feeling of rebellion stirred in Mr.Tench's heart, and he wrenched up a piece of the road with splintering finger-nails and tossed it feebly towards them. One rose, and flapped across the town: over the tiny plaza, over the bust of an ex-president, ex-general, ex-human being, over the two stalls which sold mineral water, towards the river and the sea. It would't find anything there: the sharks looks after teh carrion on that side. Mr.Tench went on across the plaza.

テンチ氏はエーテルの入った円筒をとりに,燃えるようなメキシコの太陽と白ちゃけた埃の中へ出て行った。兀鷲が数羽,薄ぎたなく冷淡に,屋根の上から見降ろした。こいつ,まだ死んで腐っていないな。なにくそっという気持ちがかすかにテンチ氏の心に動いて、彼は割れかかった爪で往来の土をはがして、兀鷲のほうへ弱々しく投げた。一羽が飛びたって,町を横ぎって飛んで行った,ちっぽけな広場の上を,生前は大統領で将軍で人間だった人の胸像の上を,鉱泉を売っている露店の上を,川と海のほうへ。海へ行ったって何もあるもんか。そっちの死体は鮫がちゃんと始末するよ。テンチ氏は広場を横切って歩いて行った。

どうしたら読めるようになるか?どうしたら味わえるようになるか?

自分が最初にこの英文を読んだとき、それはもう、たんたんと味もそっけなく読みました。

で、解説を読んで見ると・・・

そんなに深く読めるようになれるのはいつになるやら・・・

と思った記憶があります。

もちろん、今でもそのレベルを見上げると、はるか雲の上の上の上の上です。

というか、そのレベルに達することは一生むり、と感じる今日この頃。

なんせ洋書を読んでないもんで。。。

それはともかく。

じゃあそのレベルに達するにはどうしたらよいか、を「洋書の読み方、の続き」で考えてみたいと思います。

でも・・・

考えるとか以前の問題として、最近は洋書を読んでないもんで。。。

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