2007年5月 7日
変形生成文法と中島文雄「英語の構造」
自分は言語学には門外漢ですが、多少、興味があり、たまに言語学の本を買ったりします。
ソシュール(Sausure)の記号論、ロラン・バルト(Roland Barthes)、ジャック・デリダ(Jacques Derrida)などの本を(理解もできずに)読んでいます。
で、今回はノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)が始めた、
(変形)生成文法の話を。
中島文雄(著)「英語の構造」という本があります。
上・下、の二冊本。
この本は(変形)生成文法の解説書。初版は1980年。
自分が持っている本(上)の奥付を見ると、1993年の第21刷。
いくら新書(岩波新書)だからといっても、生成文法についての本が毎年、毎年、増刷されたとは、少し驚き。
それほど生成文法に興味をもった人が多かったのでしょうか?
(変形)生成文法とは?
生成文法の定義はいろいろありますが、中島文雄によると、
人間には言語を使う能力が具わっており,言語活動はこの能力の発現にほかならない.(略)文をつくるには適当な語をえらび,これを一定の仕方で統合するのであるが,その統合の仕方についての自覚はない.(略)この文法がどういうものであるか,それを意識の表面に出して記述するのが学問としての文法である.これは Noam Chomsky が彼の Syntactic Structures(1957)以来提唱している変形生成文法(transformational generative grammar)の文法観である.これは従来の,言語を与えられたものとして帰納的に文型を発見しようとした文法研究に対し,言語の創造性に着目した新しい研究態度であった.
-「英語の構造」
かいつまんでいうと、人間には生まれながらにして言葉を覚える能力があり、自然とそれを使いこなすようになる。
さらに、単に聞いたことを覚えるだけでなく、全く聞いたことがない言葉を作り出す能力もある。
たとえば、自作の詩、『新言語学への鎮魂歌(レクイエム)』。
ギリギリ義理あるキリギリス in イギリス、
親分、カナブン、武士の一分、
仁義を切って、ミジンコのみじん切り。
と、意味的にはともかく、人間はいくらでも文を作り出すことができる。
なぜか?
それを解明しようとする試みが、(変形)生成文法。
伝統文法との違い。
たとえば次の英文があったとする。
The man put his suitcase on the ground.
英語を習っておらず、意味がわからない人に、どうやったらこの英文の意味をわからせることができるのか?
それが、従来の文法、日本でいう、「伝統文法・学校文法」。
一方、生成文法は、誰かがこの英文を作り出したが、どうして作りだすことができるのか、を解明しようとする。
が、そのことにはあまり触れないでおきます。
まず第一に、自分でもその理論がよくわかっていないから。
学者の間でもいろいろな解釈があり、明確な答えが出ていません。
そして、それを知ったところで、英語の読解力が増すことはないから。
生成文法がなぜ学校で教えられることはないか。
渡部昇一さんが「秘術としての文法」で的確に指摘しています。
新言語学は読書力の増進にはほとんど無関係である。新言語学は、構造言語学であれ、生成文法であれ、確実な意味がすでに研究者にわかっている文章のみを分析研究する。たとえば私が今、難しくてよく意味の取れない英文に出会ったとしよう。その文章を構造言語学か生成文法かで解明して見ろ、と言われたらそれは駄目なのだ。すでに解っていることが前提なのだから。
そう、生成文法は意味がすでにわかっている英文を、どうしてその英文を作り出せたのか、を分析するのです。
生成文法は、普遍文法というのを前提としています。
普遍文法とは、人間には生まれながらに言語を習得することができる能力がある、ということ。
生成文法の分析方法。
先ほどあげた英文、
The man put his suitcase on the ground.
男はスーツケースを地面においた。
この英文を生成文法では、こう分析します。

本当は時制などを加え、さらに細かく図解します。
最初は誰もこの図解に圧倒されるでしょう。
最初、自分はこの図を見たとたん、ページを閉じました。
でも見てみると伝統文法の品詞分解とほぼ同じです。
まず、S(=sentence)を NP(名詞句)とVP(動詞句)に分けます。
これが、英語の基本構造。
NP(名詞句)はさらに Det(=determiner 限定詞.ここでは冠詞の the)と、N(名詞 man)に分解できる。
the + man
VP(動詞句)は、V(動詞.put)とNP(名詞句.his suitcase)、さらにPP(前置詞句.on the ground)に分解できる。
省略しますが、his suitcase と on the ground も同様に品詞分解。
この、NP+VP が英語の基本構造。
he put it there.
この英文も、his suitcase を it という代名詞、on the ground を there という副詞に変えただけで、構造は同じ。
どんな英文でも、原則、この基本構造の応用です。
深層構造と表面構造。
話す場合でも、書く場合でも、どうして文を作れるのか。
生成文法では深層構造と表面構造という考えを使います。
人が文を作るとき、頭の中に単語の連なりがある。
それが、深層構造。
それが文法によって変形され文となり、口から発せられる、または文章として書き記される。
それが、表面構造。
具体的に英文で考えてみます。
以下は町田健(著)「チョムスキー入門 生成文法の謎を解く」に書いてあることに、自分で少し説明を加えました。
次の二つの英文があります。
a. Clark gave flowers to Jenny.
b. Clark gave Jenny flowers.
意味はだいたい同じ。
伝統文法の立場だと、a. は第三文型。b. は第四文型。
どうして b. の文ができたのか?
先ほど書いたように、英語の基本は 名詞句+動詞句、つまり、
主語+動詞+目的語+前置詞句
よって、b. の根本、つまり深層構造は、a. の英文。
b. Clark gave Jenny flowers
の深層構造は、
Clark gave flowers to Jenny
つまり、a. Clark gave flowers to Jenny. です。
まず、Jenny が移動。
Clark gave Jenny flowers to
不要になった 前置詞 to は削除されます。
Clark gave Jenny flowers
これが、表層構造。伝統文法でいう、第四文型の出来上がり。
もうひとつ、今度は中島文雄「英語の構造」から。
They forced John to obey.
いわゆる、使役動詞(~に…させる)
この英文の深層構造(「英語の構造」では基底構造)は、
they forced John + John obey
同一の名詞 John は消去される。
そして、補語標識として、to が付けられる。
They forced John to obey.
これが、使役動詞の成り立ち。
to の意味。
再び、中島文雄「英語の構造」から。
二つの英文があります。
| A | They nominated Jones to be the next chairman. 彼らはジョーンズを次期議長に任命した。 |
| B | They asked Jones to be the next chairman. 彼らはジョーンズに次期議長になってくれるよう要請した。 |
A は次のようにも書けます。
They nominated Jones the next chairman.
つまり、
They nominated Jones ( to be ) the next chairman.
to be は省略可。
一方、B の英文、
They asked Jones to be the next chairman.
の to be は省略できません。
なぜでしょうか?
それは、B の英文は、動的だからです。
動的、とは、これからそうなる、ということ。
B の英文の to be the next chairman というのは、まだ Jones は次期議長になっていません。
なってくれ、と頼んだ(ask)だけです。
to は、いわゆる「to 不定詞」としても使われますが、元来、前置詞でした。意味は「方向・到達」。
to 不定詞になってもその意味は残っており、B の英文だと、be the next chairman への方向に頼んだわけです。
A の文は動的ではありません。すでに任命しています。
それを静的といって、その場合、to be は省略可能。
(参考)
They chose Tom (to be)captain of the team.
生成文法も読解力の増進に役立つ?
生成文法は読解力の助けにならない、と書きましたが、英語を深く知る、という面では役立ちます。
特に、中島文雄の「英語の構造」は伝統文法の延長のような感じで、とても勉強になります。
しかし、この本は実質、絶版状態。
上はたまたま本屋で見つけ、下は古本屋でやっと探し当てました。
とても勉強になる良い本なのにもったいないので、これからちょくちょく「英語の構造」で学んだこと、なるほどと思ったことを書いていこうと思います。
生成文法の本
生成文法の創始者、チョムスキー自身の本は、はっきりいって、面白くありません。
もちろん、英語の勉強という面から見れば、ですが。
生成文法のわかりやすい解説本は、すでに紹介した町田健さんの、
などがあります。
生成文法理論の変遷などをとりあげた本として、
なども、なかなか興味深いです。
まあ、一番英語の勉強に役立つのは「伝統文法・学校文法」なんですけどね。自論としてですが。

comments
from nobuko@ケイティクス
む、難しい・・・・・。完全に私の頭の範囲を超えてますっ!人間の脳みそってすごいってことだはなんとなくわかりました(T_T)
2007年5月 9日 03:47
from まさんた
nobuko さん、こんにちは。自分も理解できないまま書きました。脳みそ、スゴイですね。カニ味噌は嫌いですが。苦い。
2007年5月 9日 22:44
from niko
こんにちは。ノーム・チョムスキーさんといえば、アメリカを批判する本を多数出しているおじ(い)さまとしか知りませんでした。こんなすごい学者さんだったとは…。でもアメリカ関連の本は読めたら読みたいと思いますが、生成文法については、まさんたさんの記事を読むことにしたほうがいいみたいですね(*^^*)。個人的にはまさんたさん自作の詩が一番頭に残ってしまいました。「仁義を切って、ミジンコのみじん切り」。最高!!
2007年5月11日 09:28
from まさんた
チョムスキーはもう政治批評家ですね。最近、日本でチョムスキーの本が翻訳されることが多くなってきました。日本でもアメリカの政策を批判する声はたくさんありますからね。
来年で80歳。あれだけの情熱をもって語るチョムスキー、ほんと、老いてますます盛ん。
ただ、チョム翁、日本の歴史の知識はほとんどない、という印象を受けました。
まあ、アメリカの知識人にはよくあることなんですけどね。
もちろん、日本人も他国をかなり誤解しているのでしょうけど。
さすらいの詩人、まさんたより。
2007年5月11日 18:31