ハードボイルドな男と、ウサギの耳

英語を習っていない子供でさえ知っているような英単語で、組み合わせの妙によって、つまずいた話。

英文は、マイクル・コナリー(Michael Connelly)の、「The Black Ice」より。

このミステリーの主人公は、刑事ハリー・ボッシュ。

とってもハードボイルドな男です。

どのくらいハードボイルドかというと、

Bosch dragged deeply on a cigarette and then dropped the butt into the gutter.

【語句】
¶drag on (熟語)タバコを深く吸い込む。
buttト(名詞)タバコの吸いさし。
¶gutter/タ(名詞)(道路わきの)排水溝。

【訳】
ボッシュはタバコをすぅ~と深く吸い込み、火がついたままタバコを道路わきの排水溝に投げ捨てた。
M.Connelly 「The Black Ice」

drag on は「タバコをすぅ~っと深く吸い込む」。

タバコを吸う人ならわかると思いますが、火を消す前に、最後の一口、とばかりに深く吸い込ます。

さらに deeply がついています。
ボッシュはタバコを一口、ゆっくり、めいっぱい吸い込んだのでしょう。

butt は「タバコの吸いさし,吸い殻」などいろいろな意味がある多義語。
詳しくは、ミステリーの英単語 butt にて。

それがハードボイルドのマナー?

ボッシュの得意技は、タバコのポイ捨て。

まして、この英文の場合、ボッシュは火を消した形跡はありません。

火がついたまま、ポイ捨て。

もう一度。

火がついたまま、ポイ捨て。

そんな男の一幕。

警察署内にて。

There was a black-and-white television on top of the file cabinet behind the autos table.

【訳】
交通課のテーブルの後ろにある書類棚の上に白黒テレビがあった。
M.Connelly「The Black Ice」

日本では、白黒テレビ。

英語では a black-and-white television。

白黒逆です。

「老いも若きも」が英語では young and old と逆なのと同じ。

autos はどの辞書を調べても出ていなかったのですが、おそらく交通課。

で、次の英文。

He turned it on and played with the rabbit ears until he got a reasonably clear picture.
M.Connelly「The Black Ice」

He はもちろん、Bosch のこと。

He turned it on
ボッシュはテレビの電源を入れた

そして(and)

played with the rabbit ears
ウサギの耳で遊んだ

・・・?

一瞬、

ハードボイルドな男が、かわいいウサギの耳のオモチャで遊んでいる

光景が目に浮かびました。

人間の趣味はそれぞれ。

ハードボイルドとはいえ独身の身。そんな風流な趣味があってもおかしくありません。

・・・とは思わなかったものの、釈然としないまま英文の続きを見ると、

until he got a reasonably clear picture.

【訳】
やっと、ちゃんと見られるくらいの映像になった。

すこし意訳しました。

白黒テレビの映像が、完全に鮮明ではないが、まあまあ満足できるくらいにはなった、という意味。

until は、…まで(ずっと)、の意味ですが、

A until B

A を続けて、ついに B

と考えたほうがわかりやすいときがあります。

She ran and ran, until she came to a small village.
彼女はどんどん走り,ついに小さな村にたどりついた.
「ジーニアス英和辞典」

この例文の彼女はなぜ走り続けたのでしょう?

ミステリー・・・

この小さな村で、いったい何が彼女を待ち受けているのでしょうか?

ん・・・ミステリー・・・

話がそれました。

もう一度、英文。

until he got a reasonably clear picture.

reasonably は、「かなり」もしくは、「まあまあ」。

LDOCE (Longman Dictionary of Contemporary English/ロングマン現代英英辞典)では、

reasonably
quite or to a satisfactory degree, but not completely
かなり、もしくは、満足できるくらいの、でもすごく満足できるほどではない.
ー「ロングマン現代英英辞典」

と定義しています。
でも最近は、quite 「かなり」より、「まあまあ」の意味で使われることが多いような気がします。

until he got a reasonably clear picture.

【訳】
やっと、ちゃんと見られるくらいの映像になった。

確かに・・・ウサギの耳!

と、英文を最後まで読んで、「もしや?」と気がつきました。

played with the rabbit ears

rabbit ears って・・・あれか?

案の定、辞書を引くと、

rabbit
・・・
~ ears 《米略式》[単数扱い] テレビ用室内アンテナ.
「ジーニアス英和辞典」

確かに室内用アンテナはウサギの耳に似ています。

というわけで、ボッシュがいじくっていたのはアンテナでした。

He turned it on
ボッシュはテレビの電源を入れた

and
そして

played with the rabbit ears
室内アンテナをいじくり

until he got a reasonably clear picture.
やっと、ちゃんと見られるくらいの映像になった。

映りの悪い室内アンテナさえ自由自在。
さすがハードボイルド。

簡単な単語と、文脈。

rabbitear といった日本の小学生でもわかるような単語でもつまずくことがある、といういい例でした。

まぁ、単に自分が知らなかっただけの話なんですけどね・・・

あとは文脈。

五歳の女の子が、かわいいウサギの人形をサンタさんにプレゼントされました、という文脈では、

played with the rabbit ears
ウサギの耳をいじって遊んだ.

という意味になってもおかしくはないと思いますが、

タバコをポイ捨てするハードボイルドな刑事

という設定ですから。

もちろん、

ボッシュには誰にも言えない趣味があった・・・それは・・・

という文脈 & 設定なら、また別の話ですが。

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comments

from 英語と格闘

ブログにコメントをいただき、ありがとうございました。

わたしもハリー・ボッシュのシリーズは大好きで全部読んでいます。ですが、面白いので早く結論を知りたくなって大急ぎで読むため、こちらのブログで検討されている部分はほとんど気がつかずに読み飛ばしていました。勉強になります。

from まさんた

英語と格闘さん、こちらのブログにもコメントしていただき、ありがとうございました。

ハリー・ボッシュを全部読んでいますか。
僕はまだ二冊目の途中です・・・
このシリーズは出版ペースが速いので、自分にはとうてい追いつけそうにありません。

でもまぁ、ゆっくりと読もうと思っています。

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