2007年2月 1日
カレッジクラウン英和辞典と英語職人
洋書を読むとき、メインに使っているのは「ジーニアス英和辞典」。
その次に利用するのが、「カレッジクラウン英和辞典」です。
「カレッジクラウン英和辞典」の初版は1964年。
1977年に第2版が発行されましたが、その後は改訂されることはなく、今はもう絶版状態です。
自分が使っているのは1994年10月1日に発行されたもの。
使い込んだのでボロボロになってしまいました。
二年くらい前、本屋で偶然に見つけたので二冊目を購入。
手に取ってみる人もいないようで、あまり触れられた様子はなく、辞書棚の下の方にひっそりとたたずんでいました。
おかげで新品同様のを手に入れられたのはラッキーでした。
二冊目のほうは1996年10月1日発行。
十年くらい前までは発売されていたようです。
二冊目を手に入れられたのはいいのですが、なんだか使うのがもったいなく、相変わらずボロボロになってしまった最初のモノを使っています。
カレッジクラウン英和辞典の魅力。
「カレッジクラウン」の魅力の第一は、語源が豊富なところ。
他の最近の英和辞典にはほとんど語源欄がありません。
需要が少ないからでしょうか?
大修館「ジーニアス英和大辞典」には、ほどよい数の語源欄がありますが、ほぼ全ての単語に語源が載っている辞書といえば、研究社「新英和大辞典」か「カレッジクラウン英和辞典」くらい。
あとは、語源と意味の変遷が中心の研究社「英語語源辞典」のみ。
先ほど、今の英和辞典には語源欄がないのは「需要が少ないからでしょう」と書きましたが、確かに語源欄を見ても役にたたないのが多いことは間違いありません。
たとえば、clear 「澄んだ,晴れた」という簡単な単語の語源を「カレッジクラウン英和辞典」で調べてみると、
[ F. clair < L. clarus clear ]
と、書いてあります。わかりやすく書き直せば、
英語の clear は、フランス語の clair(クレール)「明るい,晴れた」から英語に入ってきた。
フランス語・clair をさらにたどれば、ラテン語の clarus(クラールス)に行き着く。
ラテン語・clarus は、英語でいうと、意味は clear の意。
こういう情報は言語学に携わる人たちには有効かもしれませんが、一般の英語学習者にはあまり役には立ちません。
役に立つのは、たとえば consent「同意する」という単語を調べたついでに語源を見ると、
[ L. consentire (CON + sentire to feel, to think ]
ラテン語の consentire(コンセンティーレ)(CON 共に + sentire(センティーレ)、英語の feel, think の意。
ラテン語の sentire(センティーレ)が、感じる(feel)・考える(think)の意味。
で、con(共に)、感じる(feel)、考える(think)で、「同意する」になるのがよくわかります。
ちなみに、ラテン語 sentire は、英語の sense 「感じる」の語源でもあります。
そして、resent 「憤慨する」を調べたとき、ついでに語源欄を見ると、
[ OF. resentir < L. re- in return + sentire to feel ]
resent は、re-(in return)「何かに対し」+感じる、思う(sentire)、が原義だとわかります。
「何かに対し感じる」、ですから、「愛情などを感じる」などになってもおかしくなかった言葉ですが、「恨む・憤慨する」という悪い意味に発展した単語です。
ちなみに、resent はフランス語経由で英語に入ってきた単語ですが、元になったフランス語 ressentir(ルサンティール)は「(感情を)つよく感じる」という意味で、良い意味にも悪い意味にも使うニュートラルな言葉です。
このように、ついでに、ついでに、の積み重ねにより、単語に対する語感のようなものがついてきます(かな?)。
同義語も豊富。
「カレッジクラウン英和辞典」には同義語がたくさん載っています。
たとえば、royalty という単語は、最近では「特許権使用料」や「印税」の意味で使われることが多いですが、もともとは「王の身分」という意味。
「王の~」に関する意味を、「ジーニアス英和辞典」ではこう書いてあります。
2 [集合的に:単数・複数扱い] 王家の人,王族.3U 《正式》王位;王権.4U[通例~ies] 王の特権.5C 王領;王国.6U 王らしさ,気高さ.
一方、「カレッジクラウン英和辞典」では、
1 王であること;王の身分・地位;王位;王権;統治権(sovereignty).2 王らしさ;威風(dignity),気高さ(nobility);温情(kindliness),慈悲(mercifulness).3 王;(集合的に)王族.4王領,王国(kingdom).
と、同意語が豊富です。
最初にこの辞書を買ったのは、同義語が載っていることと、例文が豊富なところが気に入ったからです。
例文も実に豊富で、大辞典より多いくらいです。
ぜひ改訂を!
と、「カレッジクラウン英和辞典」の良いところばかり書いてきましたが、それでもメインとして使う辞書としては少々不満が。
まず、30年前の辞書ですから最新用語には弱いです。当然ですが。
もちろん、それは最近の辞書を見れば解決することですが。
今の時代は、衆寡敵せず?
ところで、「カレッジクラウン英和辞典」は、「クラウン英和辞典」の上位版です。
「クラウン英和辞典」は戦前によく使われた辞書のようです。
「クラウン英和辞典」の初代編集者が、河村重治郎という人。
その河村重治郎の生涯を描いた、「英語名人 河村重治郎(三省堂選書)」という伝記があります。
その一節。
『クラウン英和』は昭和十四年(一九三九)三月に発売されるや、中学校の学習辞典として空前の評価を受け、昭和十八年、戦時下の事情によってその発行が止まるまでの四年間に、二百三十版を重ねた。
-「英語名人 河村重治郎」
戦後、学制改革がありましたから、引用文の中学とは今でいう高校のことです。
「クラウン英和」の見出し語は二万八千語くらいだったそうです。
現在の高校生向け英和辞典は少なくても五万は超えているでしょう。
学習英和がその見出し語をふやすことを重治郎は強く戒めた。
「学生には、そんなに多くの語数は必要じゃありません。もし、この辞書に出ていない語があったら、図書館でもっと大きな辞書をひけばいいじゃありませんか」と、言うときの重治郎の口調には、いつも厳しいものがあった。
-「英語名人 河村重治郎」
自分の受験時代、「ジーニアス英和辞典」や「ライトハウス英和辞典」の評判がよく、使っている人が多かったので買いました。
が、まったく使いこなせませんでした。
自分の頭の問題なのかもしれませんが・・・
受験生を対象とした英和辞典の収録語数は、年々増えていくような気がします。
そして、辞書はそれをウリにしています。
最多の○万語収録!
受験には五万語・十万語の英和辞典は必要ないと思いますが、どうなのでしょう?
自負と職人。
また、河村重治郎は次のように言ったといいます。
「私は職人です」とは、晩年、重治郎の口から時折、耳にした言葉である。多少「学者たち」への皮肉が込められていたかも知らないが、重治郎が自らを「職人」と言うとき、その言葉の裏にはひそかな自負が感じられた。
-「英語名人 河村重治郎」
「クラウン英和辞典」は、「新クラウン英和辞典」となり、今でも出版されています。
今の編集者は田島伸悟さん。「英語名人 河村重治郎」の著者です。
そんな職人気質の河村重治郎への尊敬からでしょう、「新クラウン」になっても、
河村重治郎 [編]
田島伸悟 [改訂]
となっています。
改訂版になっても、最初の編集者の名前を残すのはすばらしいことだと思います。
英米では最初の編集主幹者をたいへん尊重します。
OED(Oxford English Dictionary オックスフォード英語辞典)のジェイムズ・マリー(マレー)(James Murray)しかり。
ノア・ウェブスター(Noah Webster)しかり。
日本でも昔は「岡倉英和(今の研究社の英和大辞典)」、「井上英和」、「齋藤英和」、など、編集者の名前で呼んだようです。
画期的な辞典、勝俣銓吉郎の「(新)英和活用大辞典」が改訂され、「新編 英和活用大辞典」になりましたが、裏表紙には、
編集代表 市川繁治郎
と、勝俣さんの名前はありません。
もちろん、「まえがき」に、
この辞典は勝俣銓吉郎氏の『新英和活用大辞典』(以後『活用』)を改訂する仕事から生まれたものです.(以下略)
と書いてあります。
でも・・・
「新編 英和活用大辞典」はたいへん便利で大好きなのですが、
勝俣銓吉郎 [編」
市川繁治郎 [改訂代表]
となっていたら、もっと愛着がわいたのになぁ、と思います。
なんだか「カレッジクラウン英和辞典」の話からそれてしまいました。
「カレッジクラウン」の出版元、三省堂は英和辞典の中心を「ウィズダム英和辞典」にシフトしたようです。
「ウィズダム英和辞典」は持っていませんのでよくわかりませんが、たいへん評判が良いようです。
ぜひ、「ウィズダム英和辞典」に「カレジクラウン英和辞典」と同じ語源欄をつけてもらいたいです。
そうなったら、絶対買うのに。

comments
from 通りすがり
面白いブログに出会えてうれしいです。
私も持っていますよ「カレッジクラウン英和辞典」。私のは1986年第2版です。いい辞書ですよね。
河村重治郎さんの「私は職人です」という言葉を聞いてバルテュスという画家を思い出しました。辞典や英語とは関係ありませんが。
これからもちょくちょく拝見させていただきます。
2008年6月18日 02:51
from 管理人 まさんた
通りすがりさん、こんにちは。
バルティスという画家さんのことはよく知りませんが、職人気質の方だったのでしょうか。
「カレッジクラウン英和辞典」の良さを知っている方がいらっしゃるのを知り、うれしくなりました。
これからは職人気質を持ってブログを書きたいですね。
でも…どうしたら「職人気質」でブログを書けるのか…よくわかりませんが。
2008年6月19日 17:44
from つのさん
時代の要求か、引用文をしっかり読み込んで英語を理解するといった風潮が廃れてきたので、カレッジクラウンのような読ませる辞典がはやらないのだろう。重箱の隅をつつくような情報が先行して、英語という言語の本質を見極めるためのもう一つの方法がないがしろにされているのはもったいない。河村先生のような本当に英語をよく理解されている方が少なくなってしまったので、カレッジクラウン、クラウンといった名辞典を継ぐことが難しくなったのだろう。特にカレッジクラウン(カレクラ)は新しい時代に即して改訂版を是非とも出版して欲しい。三省堂がんばれ!
2008年8月 8日 11:05
from 管理人 まさんた
つのさん、こんにちは。
田島伸悟(著)『英語名人 河村重治朗』にこんなくだりがあります。
“ 晩年はクラシック音楽を低く流しながら校正をしている姿を、よく見かけたという。
「辞書なんてつくるのもばかですよ。ただ、これを必要とする人がいるから つくるんんですが。」
ある日、仕事の打ち合わせを終えて、私が立つと、重治郎は玄関口まで私を送ってくれながら、ふとそんなことを言った。”
ほんと、深い言葉ですね…。
2008年8月 9日 10:17