2006年12月29日 Posted by まさんた
smear ミステリーの英単語
英単語 smear は多義語というわけではありませんが、使い道がとても広く、文脈で意味をとらえなければならない単語です。
基本的な意味は、「(泥・油などを、無造作に)ぬりつける」。
そこから、「汚す」、「こする」、名詞で「汚れ・染み」など、場面により意味が変わります。
★洋書のミステリーに出る英単語
smear [スミア ]
【動詞・名詞】
1.(油・泥などを)ぬりつける,こする,よごす;汚れ,染み。
2.(名誉などを)けがす;中傷。
さっそく smear が使われている英文の引用。
この smearはどんな意味?
難しいのは、「何が塗りつけられているのか」です。
そこのところは、とりあえずぼかして訳しました。
There was an old carriage house, its windows smeared and dirty, lit from behind with failing sunset light.
【訳】
古い馬車置き場(or 車庫)があった。窓は汚れており、消え行く落日に背後から照らされていた。
-Jeffery Deaver 「The Coffin Dancer」
何が塗りつけられているのかの前に、この英文の構文を。
この文の後半は分詞構文が使われていて長くなっています。
主文(この引用文では There was an old carriage house)の後に続く分詞構文は、基本的には情報の付け加え。
どんな馬車置き場なのか、どういう状態なのか、を後ろから説明します。
引用文を分解すれば、
(1)There was an old carriage house.
古い馬置き場があった。
(2)Its windows were smeared and dirty.
その窓は油に汚れていた。
(3)The old carriage house was lit from behind with failing sunset light.
その古い馬小屋は消え行く落日に背後から照らされていた。
となり、(2)と(3)の赤文字のところを省略して主文である(1)にくっつけた感じです。
もう一度、同じ引用文。
There was an old carriage house, its windows smeared and dirty, lit from behind with failing sunset light.
【訳】
古い馬車置き場(or 車庫)があった。窓は汚れており、消え行く落日に背後から照らされていた。
それでは問題の、何が窓に塗られているのでしょうか?
候補としては、
| 1 | 油 |
| 3 | 泥などの、いろいろなゴミ |
英語語源辞典によると、元来はキリスト教用語で「聖油を塗って聖別する」という意味だったそうです。
ですから、「油を塗る」という意味で古くから使われていたようです。
馬車小屋(車庫)の窓ですから、油の可能性もあります。
あるいは、古い小屋ですから泥などのゴミも自然につくでしょう。
さてどれなのか・・・
解決はちょっと難しいので、油や泥、ゴミなど、自然界の色々なものが窓にくっついていて汚い、としておきます。
長く書いてきて卑怯ですが・・・
塗る、こする、汚す、染み、意味いろいろ。
次は smear されるいろいろなもの。
まずは、染み。
Inside the evidence bag was a square of paper towel smeared with a faint brown stain.
【語句】
¶a square of ... (熟語)四角い...。
¶stain/ステイン(名詞)染み,汚れ。【訳】
証拠物件袋の中には、かすかに茶色く染みのついた四角い紙タオルが入っていた。
-Jeffery Deaver 「The Coffin Dancer」
この英文は倒置構文。
倒置文を元に戻すと、
A square of paper towel smeared with a faint brown stain was inside the evidence bag.
この文の主語は A square of paper towel smeared with a faint brown stain 「かすかに茶色く染みのついた四角い紙タオル」。
英語は長い主語を嫌うので、倒置されます。
主語が長い理由は、paper towel 「紙タオル」に、どんな紙タオルなのか?を後ろから説明する過去分詞(smeared with a faint brown stain かすかに茶色く染みのついた)が続いているから。
前置詞句+be動詞+主語の形の倒置構文はよく見かけます。
江川泰一郎著「英文法解説」の「倒置構文」の項を見ると引用文、
Inside the evidence bag was a square of paper towel smeared with a faint brown stain.
証拠物件袋の中には、かすかに茶色く染みのついた四角い紙タオルが入っていた。
と同じ構造、前置詞句+be動詞+主語(過去分詞...)の例文が載っています。
In front of the forest was an open field covered with grass and wild flowers.
森の前面には野原、草と野生の花で覆われた野原が開けていた.
-「英文法解説」
そして説明として、
この倒置は強調のために場所を示す副詞語句を文頭に出すことのほかに,倒置によって文全体の座りとリズムがよくなることに注意したい。
-「英文法解説」
さらに、
文尾の主語にかなり長い修飾語句を無理なくつけられるという利点もある。
-「英文法解説」
と説明されてました。
倒置されていない文と倒置文を比べると、
A square of paper towel smeared with a faint brown stain was inside the evidence bag.
Inside the evidence bag was a square of paper towel smeared with a faint brown stain.
読み比べるとどうでしょう?
やはり倒置文の方がしまった感じがします。
かな?
倒置された引用文を読んでみます。
Inside the evidence bag
証拠物件袋の中には
was a square of papar towel
四角い紙タオルが入っていた
a square of は形容詞の働きをしています。
実質的な主語は、paper towel。
証拠物件袋の中に入っていたのは、どんな四角い紙タオルなのでしょう?
smeared with a faint brown stain.
かすかに茶色い染みがつけられていた。
名詞のうしろから、どんな名詞なのかを説明する過去分詞は英語を読むうえでとても大切な構文です。
そのうち "ミステリーで英文解釈" で名詞(~ed)【(~された)名詞】型の例文をたくさんあげたいと思います。
次の smear は、泥。
次の引用文は、ホームレスのふりをするために、顔や手に泥を塗りつた男の話。
He still was dressed homeless and filthy with the mud he'd smeared on his face and hands to simulate weeks of living on the street.
【語句】
¶filthy/フィルスィ(形容詞)汚い,不潔な。
¶simulate/スィミュレイト(動詞)ふりをする。【訳】
彼はまだホームレスの格好をしており、何週間も路上生活を送ってきたかのように装うために顔や手にこすりつけた泥で汚かった。
-○△□
最初から見ると、
He still was dressed homeless and filthy
彼はまだホームレスの格好をしており汚かった
なぜ汚い格好をしていたのでしょう?
with the mud
泥でhe'd smeared
彼が塗りつけたon his face and hands
顔と両手に
the mud と he'd smeared には関係代名詞が省略されています。
(参照)
He'd smeared the mud on his face and hands.→ the mud which he'd smeared on his face and hands
なぜ顔や手に泥を塗りつけたのでしょうか?
to simulate weeks of living on the street.
何週間も路上生活を送ってきたかのように装うために
weeks of ・・・も、上の引用文にでた a square of ・・・「四角い・・・」と同じように形容詞の働きをしています。
ピンクの口紅。
ドロの次は、口紅を smear。
The ashtray on her desk was filled with butts smeared with pink lipstick.
【語句】
¶butt/バト(名詞)タバコの吸い殻。【訳】
彼女の机の上の灰皿はピンクのリップの色がついたタバコの吸い殻でいっぱいだった。
-Jhon Grisham 「The Firm」
butts smeared・・・も、名詞(~ed)【(~された)名詞】です。
butts
タバコの吸い殻→ どんな?
smeared with pink lipstick
ピンクのリップの色がついた
最後はちょこっとハードボイルドな smear。
いままでの smear は「塗る,色をつける」でしたが、次の引用文は「こする」感じ。
Bosch smeared the tears on her cheeks with his hand.
【訳】
ボッシュは彼女の頬を流れる涙を手でぬぐった。
-M.Connelly 「The Black Echo」
さすがハードボイルドな男、ハリー・ボッシュ。
女の涙は手でぬぐいます。
それとも、ただ単にハンカチを持っていなかったから?
自分もハードボイルドな男ですが、当然、ハンカチは持ち歩きません。
手を洗った時も、自然乾燥。
以下余談。ぬたくる?
齋藤秀三郎の『英和中辭典』という辞典があります。
辞ではなく、辭という字でも分かるとおり、古い辞書で大正四年に出たものです。
驚くべきことに今でも売られています。
翻訳家の柳瀬尚紀さんなどもこの辞書の愛好家です。
自分はギボンの『ローマ帝国衰亡史』を齋藤英和を引きながら読んだことがあります。
なんとなく古風な感じを味わいたくて。
この『英和中辭典』は、読むといろいろな意味でたいへん面白いので、そのうちその面白さを書いてみたいと思います。
で、ついでに齋藤英和で smear を調べてみたところ、
smear 【他動】(anything over with pitch, mud, etc.)塗る,塗り附ける,ぬたくる。
とありました。
ぬたくる?
一瞬、「ぬりたくる」の誤植かと思いましたが、国語辞典を引くとちゃんと「ぬたくる」という言葉がありました。
「ごてごてと塗りつける」という意味。
「ぬりつける」のなまった言葉かと思いましたが、一応いろいろ調べてみました。
その結果、「ぬたくる」 は 「のたうちまわる」と語源が同じと判明。
のたうちまわるイノシシ。
研究社の『新和英中辞典(第4版)』にも「ぬたくる」という見出しがあり、三番目の意味に ⇒ のたくる. とあります。
で、「のたくる」を見ると最初の意味に ⇒ のたうつ. とある。
「のたうつ」というと「のたうちまわる」と同じ。
「のたうつ,のたうちまわる」の「のた」とは、そもそもどんな意味なのだろう?と思いヤフーの辞書(大辞林・大辞泉)で調べたところ、「のた」という語はなし。
そこで、「のたうつ」を調べると意味は、
苦しみもがく。苦痛でころげまわる。
そして、注意書きに、
《「ぬたうつ」の音変化》(大辞泉)
とあるので「ぬたうつ」を探索。
すると、
1「猪が泥土に転がり臥(ふ)す」 2「しまりなく寝転がる。また、転げまわる」(大辞泉)
とある。
では「ぬた」は何かと調べたら、
1「泥ぶかい田。沼地。ぬまた」 2「《猪は、泥の上に枯れ草を集めて寝るというところから》猪の臥床(ふしど)。また、泥土。泥」(大辞泉)
やっと、氷解。
ぬた(沼田)
↓
猪の寝床
↓
ぬたうつ(猪のように(だらしなく)寝転がる)
↓(【ぬ】から【の】への音変化)
のたうつ(転げまわる。転じて、苦しみもがく)
↓
のたうちまわる
「ぬたくる」は「ごてごてと塗りつける」という意味ですが、猪が沼で体にゴロゴロと寝転がりながら泥を塗りたくる様子に似ていることが由来。
なんとなく、非常に納得。
以上、ミステリーの英単語その8、smear でした。



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